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5.根回しがお上手ですね①

Author: 鷹槻れん
last update Last Updated: 2025-06-04 15:50:05

 結局私、あのあと黄色いパッケージの方――レモン味――の飴も頂いて、いま口に含んでいるところです。

 あ、レモン味のときはさすがに唇、死守しましたよ?

 口移し、断固拒否! 桃味だけで十分なので!って力説したら、御神本(みきもと)さんってば嬉しそうに「そうか、桃で満足したか」って言って。多分それ、分析間違ってるからね!?

 コロコロと飴玉を口の中で転がしながら、1日のうちに1度ならず2度までも唇を奪われてしまうなんて!と頭はフル回転。

 考えすぎて、腹いせみたいにガリガリと飴玉を噛み砕いてから、もったいないことをしてしまった、と思ったけれど後の祭り。

 飴とか食べるの久々だったし、もっと味わいたかったのにっ。

 もう1個ずつ欲しいって言ったら、呆れられるかな。でもまだ一袋ずつほぼ丸々残ってるし。

 独り占めしたら虫歯になりますよ?って脅したらいけるかな。

 そんなことを思っていたら、

「着いたぞ」

 と言われて。

 窓外に視線を転じると、薄暗すぎてよく見えなくて。

 フロント側にぽっかり四角く、見慣れない外の景色が見えた。

 この閉鎖的な感じ。きっとどこかの屋根付きガレージか何かに入ったに違いないの。

 当たり前だけどうちのおんぼろアパートにはそんなのなかったはずよ?

 だからって、どこか近場の立駐に入ったという感じでもないし。

 なにこれ、なにこれ? 私、飴に夢中になってる間にどこに攫われたの!?

 そうこうしていたら御神本さんに助手席側のドアを開けられて。

 恐る恐る外に出て……キョロキョロと辺りを見回していたら、唯一外との繋がりを感じられた入り口開口部の四角く切り取られた景色に、木製の大きな扉がお辞儀するみたいに半回転しながら降りてきた。そのロボットアニメさながらのカクカクしたような、それでいて滑らかさも感じさせるよく分からない動きにビクッとなる。

 天井に取り付けられたセンサーライトのおかげで真っ暗にはならなかったけれど、心臓バクバクよ!?

 とっ、閉じ込められた!?

 そんな不安にさいなまれながらソワソワしつつ視線を彷徨わせたら、御神本さんが壁面に取り付けられた扉の開閉操作パネルをいじっただけだと分かって少しホッとする。

 内側にそういうのがあるって分かっていれば、いざとなったらそこを触って外に出ればいいわけだしね。

 い、いじり方は分かんないけど……ああ言うのはバンバン叩いたら何となかるっていうのが私の持論。

 あ、もちろん説明書きが日本語ならちゃんと読むわよ?

 「開」と「閉」ならお手の物♪

 でもこれが英語だったら叩くと思う。

 正直なところ、「Open」とか「Close」とか書かれてるのを見ただけでも不安になってしまうもの。

 「↑」とか「↓」とかの記号ならまだ対応できます!

 何はともあれ。

 もう! 閉めるなら閉めるって声くらいかけてくださいよ!

 怖かったのよ!?

 なんて言う私の心の叫びなんてどこ吹く風。

 御神本さんはツカツカと私の横に来ると、

「こっちだ」

 何が何やら分からないままの私の手を引いて、ガレージ横の小さな扉を開けた。

 操作パネルなんていじらなくても出入り口、別にあったのね。

 良かった!

 外に出られたー!

 そう思ったのも束の間、出た先が大きな庭付きの日本家屋へのアプローチ――玉砂利に、車が余裕で通れそうな幅広の石畳みの道――じゃあ、戸惑うなって言う方が無理だよね?

 道の両サイドを囲ってるの、何? 竹垣?

 所々に設けられた和風のガーデンライトに照らされて、ものすごく趣のある風情。

 薄暗くてよく見えないけれど、ここを抜けた先のあの黒々とした地面の辺りには多分池とかあって、高級そうな錦鯉が優雅に泳いでるに違いないのよっ。

 だって、ゆるっとしたアーチ型の橋が架かってるシルエットがくっきり見えるし!

 その向こうにお寺か何かかしら?と見間違うような大きさの……でも和モダンでござーいと言った雰囲気の、平家が見えた。

 中に人がいるのかな?

 電気がついていて、そこかしこから障子越しの、淡く黄色みがかった仄かな明かりが漏れている。

「あ、の……ここ……。どこですか?」

 思わず立ち止まって、あたりをキョロキョロと見回しながら言ったら、

「俺たちの家に決まってるだろう?」

 とかっ。

 私は一瞬耳を疑った。

「い、ま……俺たちの、とかほざきやがりませんでしたか?」

 驚きのあまり言葉遣いが悪くなってしまいました。

 反省ですっ。

「結婚するんだ。当然だろう」

 言われて、私、慌てて「お受けするとか一言もっ!」って返したの。

 そうしたら、「誓いのキスはうなぎ屋で済ませたぞ?」とか澄ました顔で返してきて。

 あのうなぎ味の接吻ってそうだったの!?と思わず生唾を飲みこんだのも当然よね?

 あんまりのことに〝キス〟が、日本家屋に相応しく、脳内変換で〝接吻〟に置き換わってしまったくらいの衝撃よ!?

 そりゃあ、思考が混線してうなぎ、美味しかったなぁ〜とか変なことまで思い出しちゃうって!

 うなぎの味に思いを馳せた途端、意識がうな重に囚われそうになって、慌てて首を横に振る。

 いや、でもあれ、そう言う感じでのキスじゃなかったはずよね?

 私の、自分を卑下したような発言に腹を立てて……。そう! いわゆる腹いせキスじゃない!

 そもそも飴で上書きしないといけなかった?ような口付けよ?

 それにしても――。

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